【回想】仙台でのスタート

勢いで来た仙台市、田舎者からすると都会的だった。

当然といえば当然なのだが…

中心地はビルで覆われ、行き交う人、人、人

夜は青葉城跡から見下ろす夜景が素晴らしかった。

思えば、仙台に遊びに来たときは決まって青葉城跡から夜景を見たものだ。

 

どうにかこうにかアパートを探して契約したのが、青葉区の外れにある、駅まで徒歩5分、まだ建設中の物件。

新築はたまたまで、条件に合う物件がそこだった。

 

彼女は駅から中心地まで行き、ビル街で働く。

自分はアパートの駐車場を借りて、車で仕事に行く予定。

何とも無謀、上記の予定だけでアパートを契約した。

 

仕事にありつくまで各々の貯金で生活するつもりだった。

2人で持ち出した貯金を合わせれば、1ヶ月以上は普通に生活はできる計算。

 

が、何と彼女は新生活初日、貯金は実家に置いてきたと告白したのだ。

それも、高速道路の道中で。

 

耳を疑った。

聞き直すとなんでも、家を出る直前、妹と喧嘩になり妹に言われるがまま母親に通帳をそのまま渡してきたらしい。

 

彼女と付き合ってはじめて本気で切れた瞬間だったかもしれない。

 

彼女は通帳を置いてきたとはいえ確かに不本意そうではあったが、

そんな事、いや、

不本意かどうかなどは最早どうでもよかった。

 

持ってくるはずの通帳が無い事実こそが計画上ありえなかったのだ。

 

かなり怒鳴った。

と同時に、幸先の悪いスタートに焦りもした。

 

俺が働いていた地元の職場では退職金制度があったのが幸いではあるが、それでも勤続年数なぞ数年で受け取った金額もたかが知れている。

 

生活できるのか不安だった。

ハナシがちがう…。

彼女は、、

彼女は、どういう思いで通帳を置いてきたんだろう。

 

散々喧嘩してどうにでもなれってヤケになったのか。或いはヤケついでに世話になった親への挨拶のつもりだったのか。

 

勢いで住居まで決めたものの、仕事が見つかるまで収入は無く生活費だけが消えていく事が、

不安じゃないのか。

 

常識的に考えて、仕事を決めてから住居を決めるべきだが、離れた都市に行くわけだ。

田舎で仕事しながら休日が来るたびに仙台に出向いて職業安定所に通うか?

田舎はそもそもが薄給だ。仕事を吟味しすぎて安定所に行く回数が多くなれば、それは車のランニングコストを膨らませる事にもなる。

仙台通いが長引けばそれだけで田舎1ヶ月の給料は消える。

現実的ではないだろう。

それを踏まえた上で、俺なりに考えて無謀ながらも最短と思う方法がとにかく住む事だった訳だが

結果これ。

 

正直裏切られた気分だった。

 

女ってそれだけで武器になる。

その場の気分で散財したとしても、隣の男を頼ればいいのだから。

泣いて縋る事だって出来てしまう。

なんだかんだ言って内心は、男は稼ぐもんだと思っている。カネを持ってきてくれるものだと、どこかで、そう思っている。

確かに間違いじゃない。

だがそこには決定的に、まず自分でなんとかしようとする意識が欠落している。

そうでなければ、通帳を置いてくるはずが無いのだ。

もし俺がいないとして、1人で県外に行くとして、

これから出発だというときに通帳置いてくる奴なんかいないだろう?

 

 

彼女はようやく理解したのか、何回も謝ってきた。平謝り状態だった。

道中だったが引き返して通帳を取りに行っても構わない、とまで言った。

喧嘩の末とはいえそれを置いてきたのは結果的に自分なのだから、人にあげたものを返せと言う事と同じだ。

 

怒りは収まらないが、どうにもならないので許した。

いや、許したフリをしていただけだったんだろう。

 

俺の貯金だけが頼りだった。

 

 

 

初めての県外生活、同棲生活、

とにかくがむしゃらだった。

幸い、お互い仕事は見つかった。