【回想】人生選択

時間をくれとは言いつつ、

1日、また1日と重ね、

Aさんのアタックは変わらないどころか増していった。

まだ待ってくれと言うたび、Aさんは無言で泣いていた。

申し訳なるぐらい。

たぶん、俺の知らない間にだって悲しんでいただろう。

何せ、良いともダメとも言われず、中途半端なままだった。

不安な毎日だったろう。

 

 

気持ちは固まっていた。

 

要するに待ってほしいのもTさんに別れを告げる時間が欲しいのだ。

 

1週間が経ち、Tさんと会った。

そもそも別れ話はメールでも良い、それなら時間も必要無いが、せめて面と向かって話すこと。

それが筋だと思っていた。

ケジメだと思っていた。

 

もちろん自分がした事は分かっているから

顔を引っ叩かれても構わないと思っていた。

 

 

「話って何?急に…」

 

彼女は空気を察していたのか、1週間ぶりに会うにも関わらず暗いトーンで話しかける。

 

ー好きな人ができた。本当にごめん

 

「…分かった。」

と一言だけ、その場から彼女は去った

 

その余りにも呆気ない終わりに拍子抜けした。

と同時に押し寄せる

自責の念…良心の呵責…

とまで言うと、さも偽善者だが。

こうやって別れを告げるのは初めてで自分自身予想もしていなかった。

 

彼女が居なくなったあと、メールが届いた。

 

短い間でしたが貴方と過ごした時間は無駄でした。さようなら。

 

…その通りだ。

 

俺は、誰かを傷つけて自分の我儘を優先させた。

いわゆるサイテーな男に成り下がったのだ。

 

けれど今俺には応えたい人がいる。

 

Tさんとは文字通り短い間の付き合い、

手も出していなかったのがせめてもの救いのはずだ。

 

と我ながら勝手に思うようにした。

 

 

 

後日。

Aさんと会ったときに改めてこちらから告白した。

勿論、待たせて申し訳ないと一言添えて。

車で片道50キロの水族館デートをしたあとの事だった。

 

この日から憧れの人が彼女になった。

 

 

それから長い交際が始まった。

 

お互い実家住まいで、車で行き来すると少し時間はかかるが毎日のように会った。

 

彼女は俺と居る時間が安心できたようで、

当時やっていたバンドのライブで県外遠征をしたり、勤めていた会社の飲み会に出ていただけでも不安がっていた。

元彼のこともあったし浮気されるんじゃないかと不安になってしまう、と。

 

喧嘩もしたが、結局はお互いがお互いを必要として仲良くやってこれた。

 

 

俺の職場は全国展開の大きい組織だった。

と言うと聞こえは良いが内面は超薄給で、課長や支店長や部長レベルでさえ空いた口が塞がらない待遇であった。

そんな組織に居続けるのはどうなのか、と悩んでいたところに、

実家内でイザコザが起きた。

 

 

この機会だから2人で外に出て住もう、と結論付けた。

 

 

俺は彼女のほかに、愛車が手放せなかった。

自慢のクルマに自慢のオンナ、このツーショットは男の浪漫があると思っている。

 

車を手放さないで働ける都市。

 

単純だった。

東京に行こうよと言っていた彼女は最終的に理解してくれて俺についてくる、と言ってくれた。

 

宮城県仙台市

 

お互いまだ若い。

多少無理したって何とかなる、と信じた。

あるのは勢いだけだった。

 

事前に2回だけ訪れて、2回目で住むアパートを決めた。

今思うとコレですら土地勘の無い人間がやるには無謀なプランだったと思う。

 

 

不動産屋をぐるぐる回って

疲れ果てた夜の高速道路は眠くなったが

外の空気が堪らなく美味かった。

 

助手席に乗ったまま眠る彼女もまた見ていて愛おしかった。

 

次は仙台、お互いに

初めての県外生活・同棲生活だ。